
大正時代の結婚式事情
夏目漱石の小説に見る当時の結婚式
当時の日比谷大神宮で行われていた式の様子は、夏目漱石の小説「行人」(大正元年発表)の中に記述があります。主人公は「結婚式」に列席するように言われたと記述があり、「結婚式」という言葉自体も、あわせて定着していることが伺えます。
縁女と仲人の奥さんが先、それから婿と仲人の夫、その次へ親類の顔がつづくという順を、袴羽織の男が出てきて教えてくれたが
(中略)
反り橋を降りて奥にはいろうという入口のところで、花嫁は一面に張りつめられた鏡の前に坐って、黒塗りの盥の中で手を荒っていた。
(中略)
神殿の左右には別室があった。その右の方に兄が佐野さんを伴れてはいった。
(中略)
反り橋を降りて奥にはいろうという入口のところで、花嫁は一面に張りつめられた鏡の前に坐って、黒塗りの盥の中で手を荒っていた。
夏目 漱石. 行人 (角川文庫) 角川書店. Kindle 版
このように、大正時代に入るころにはすでに神前式の式次第や施設は整えられ、進行も事細かに定められていた様子をうかがうことができます。
この小説の中で結婚する花嫁は主人公の家の奉公人で、花婿や関係者も何か特権階級といった人々ではありません。大正天皇がご婚儀を行われてから10年ほどで、神社で「結婚式」を行うことが大衆にも浸透していたことが伝わってきます。