若苗色に織り柄の一つ紋付色無地【hou81】

色無地の基礎知識|着物の格を示す紋なし・紋ありって?地紋とは別?

はじめに

着物は日本の伝統美を体現する衣装です。ひとくちに着物といっても多彩な種類がありますが、今回はその中の一つ、そのシンプルさで多くの人を魅了する「色無地」についてご紹介していきたいと思います。

色無地はその名の通り生地全体が黒以外の一色に染められた着物ですが、そこに入る紋の有無や数によって格式の度合いが変わるのが特徴です。そうした部分も含め、その選び方からコーディネート、着る際のマナー、ケアや保管などまで、日頃着物になじみのない方にもイメージしやすいよう情報を紹介していきます。

フォーマルからカジュアルまで、幅広いシーンに合わせることのできる色無地の着物は、帯や小物との組み合わせで無限のアレンジを楽しめます。今回の記事が着物の世界への入口となり、読者の皆さんが和装の楽しさを発見できることにつながれば幸いです。

色無地の基本と魅力

色無地の着物は、そのシンプルな美しさで、和装の世界においても独特の魅力を放っています。色を単一に抑えることで生地本来の質感が際立ち、着る人の内面や立ち振る舞いを美しく引き立ててくれます。

まずはそんな色無地についての基本と、その深い魅力について掘り下げて解説したいと思います。

初心者のための色無地入門

色無地は着物初心者にも選びやすい着物の一つです。というのも、先述の通り色無地は入れる紋の数によってフォーマルからカジュアルまで対応できる利用シーンの広さを持つからです。紋が入れば格の高い略礼装として結婚式や卒業式、着物の色や喪帯の使い方次第では「色喪服」として不祝儀の場に用いることもできます。一方、紋なしの色無地であれば食事会やお茶会などのカジュアルな場面でも使えます。

着物自体もシンプルな見た目であるため、着物選びにおいては色を選ぶ楽しさもあります。自分に似合う色を探してみるのも楽しいものです。柄が入らないぶん、縮緬(ちりめん)、綸子(りんず)、紬(つむぎ)など生地によっても印象が大きく異なる点も特徴です。

「紋なし」と「地紋なし」の違い

色無地の格式を左右する「紋」とは「家紋」のことです。家紋の数が多いほどフォーマル度合いが増し、着物においては格式の高い方から順に五つ紋、三つ紋、一つ紋、紋なしと家紋が減っていきます。

紛らわしい用語として、色無地をはじめとする着物には「地紋」もあります。こちらは数によって格式を示すものではなく、着物の表面に施された織模様のことを指します。色無地には地紋のあるもの・ないもの共に存在し、地紋なしの色無地は一般的にカジュアルな装いとして用いられます。

紋ありの色無地の着用シーン

色無地は、和装の中でも特に使い勝手の良い着物であることはお分かりいただけたかと思います。現にどんなシーンにもマッチするそのシンプルな美しさで、幅広い年代の方に愛用されています。

ただその汎用性ゆえに、どんな風に使い分ければよいかという点が難しく感じられるかもしれません。そこで、ここからは紋あり・紋なしそれぞれの色無地を着用するシーンと、色無地を選ぶ際のポイントを解説していきます。

まず本章では、紋ありの色無地についてご紹介します。

五つ紋・三つ紋の色無地は、特にフォーマルな準礼装として

五つ紋や三つ紋の付いた色無地は、特に格式の高い準礼装という位置付けになります。当然フォーマルなシーンにふさわしい装いとして機能するため、結婚式や茶事と呼ばれる正式なお茶会、さらに入学式や卒業式、七五三やお宮参りといったお子さまのイベントなどで用いることができます。

特に五つ紋の色無地は着物の中でも最も格が高いとされる留袖に次いで高格という扱いになり、授賞式などの気品ある場にも着用できるフォーマルさを持ちます。

素材の選択においては光沢感や質感に着目しましょう。高級感あふれる素材には自然で華美でない光沢感があり、動くたびに上品な印象を放ちます。中でも正絹は結婚式などの場に適しており、その優美な落ち感と質感が華やかな場にもふさわしい雰囲気を演出してくれます。

一つ紋の色無地は、訪問着や付け下げと同等の略礼装として

一つ紋の色無地は、紋なしの訪問着や付け下げと同格とされます。友人の結婚式やお子さまの卒業式・入学式、七五三などのみならず、パーティーや比較的カジュアルなお茶会など、色無地の中でも特に幅広いシーンに対応できます

例えば入学式の場面、お子さまを引き立てる落ち着いた紺色の色無地に伝統的な文様の入った袋帯を合わせ、帯揚げと帯締めで全体の色を引き締めることで親としての格式ある立ち姿を保ちつつ、節目の日を祝う喜びの気持ちも表現できます。

先ほど述べた不祝儀用途の色喪服も、グレーや紺、藍色などの喪色を用いた一つ紋の色無地であるのが一般的です。地紋にも慶事向きと弔事向きとがあることから、一つ紋の色無地を仕立てる際に慶弔両用で使うことのできる色と地紋を選ぶと非常に使用機会の多い一着として活躍してくれます。

なお、慶弔共に用いられる地紋としては波柄や雲柄、流水柄、有職文様などが、慶弔両用の色としては紫系をはじめ藍系、グレー系などが該当します。

「若苗色に織り柄の一つ紋付色無地【hou81】」は、40年ほど前に仕立てられた、花菱の一つ紋付色無地です。花やツルの織り柄がかわいらしく、落ち着きのある上品な印象の着物です。お祝いごとを想定して、鈍い金色地に鳳凰の帯を結んでみました。

紋なしの色無地の着用シーン

前章に続いて、本章では紋なしの色無地について解説します。着用場面や着こなし方を見ていきましょう。

カジュアルな日常着としての紋なしの色無地

紋なしの色無地は、小紋や紬と同程度のカジュアルな装いに位置付けられます。そのシンプルさもかしこまらないカジュアルウェアとしてなじむため、友人とのパーティーや食事会、観劇などの用途にぴったりです。招待された場の案内状に「平服でお越しください」などと書かれていた場合も、略礼装に当たる紋なしの色無地は適しているといえるでしょう。

柔らかく自然な色味の色無地は、日々の暮らしに寄り添う穏やかな美しさを提供してくれます。例えば春の散歩には桜色の色無地を、秋のお出かけには落ち葉を思わせるような温かみのあるオレンジやベージュをという風に、季節感を感じさせる色無地を取り入れるのも粋なものです。

控えめな印象がある紋なしの色無地にも、目を引く色柄の帯を合わせることでバランスの取れたスタイリングを楽しむことができます。例えばシンプルな灰色の色無地にポップな色合いの半幅帯を組み合わせると、カジュアルながらも洗練された印象に。普段着としての利用であれば、帯の種類は名古屋帯や半幅帯がよいでしょう。

紋なしの色無地は小物でも遊びやすい

紋が入った色無地を着用する場面といえば、大小なりともフォーマルさが求められるシーンのはず。その点、紋なしの色無地は日常着としてご自分の思うまま、自由自在に着こなしを楽しむことができるのも大きな魅力です。

色や地紋が派手すぎて、あるいは地味すぎて場にふさわしくないのではないか。半衿や重ね衿、足袋なども白でなければマナー違反ではないか。帯締め・帯揚げや草履はどんな色を選べば失礼に当たらないのか。そういったことに頭を悩ませる必要もありません。

帯締め・帯揚げや半衿、重ね衿などで色柄の入ったものを積極的に取り入れるのもよいでしょう。草履やバッグの組み合わせで遊ぶこともできます。

色無地の正しい着付け方とマナー

色無地のシンプルながらも深い魅力を引き立てるために、正しい着付け方やマナーについても理解しておきたいところです。ここでは特に着物初心者へ向けて、色無地の基本的な着付け方法と、色無地を着る際の注意点について解説します。

色無地の基本的な着用方法

着物自体になじみのない方にとっては、色無地を着ようにもいろいろと複雑に見えるかもしれませんが、基本さえ押さえておけば美しい着こなしも十分に目指せるようになります。

順序としてはまず足袋や肌襦袢を着用し、続いて半衿をつけた長襦袢、その上に色無地を羽織ります。着物は必ず「右前」になるように。上前が足の甲に少しかかる位置で腰紐を結び、身八つ口から手を入れて「おはしょり」を作ります。胸紐を掛けたらおはしょりを整え、背中のしわをまとめたら帯を結んで完成です。

自分で色無地を着付けられるようになるには

色無地を着用する際の基本的な流れは以上の通りですが、ご自身で着付けができるようになりたい場合に学べる方法についても見ていきましょう。

専門書を読む:色無地を着る際に必要な情報が体系的にまとめられています。YouTubeなどの動画解説では必要な情報に辿り着くために何本も動画を横断しなければならない場合があるのに対し、書籍であれば色無地をはじめとする着物についての基本的知識なども含めて一冊で完結することができます。

動画を見る:上記のような利点がある書籍ですが、やはり着付けをイメージする上では写真よりも動画の方が圧倒的に理解しやすいものです。かつては情報を携帯できることも書籍のメリットでしたが、現代ではスマートフォンやネット環境の普及により外出先でも気軽にネット動画の情報にアクセスできるようになりました。

着付け教室に通う:上2つはいずれも独学で色無地の着付けを学びたい場合の方法ですが、独学での学習に限界を感じる方もいるはず。その場合はやはり受講料を支払って、着付け教室などに通うのが最適です。近年はオンラインでの着付け教室も開催されており、外出せずとも自宅でプロに教わりながら着付けを指導してもらうことができます。

色無地のケアと保管

色無地の美しさを長く保つためには、適切なケアと保管が必要不可欠です。ここでは、日常で行える着物の簡単なケア方法と、正しい保管法について詳しくご紹介します。

日常でできる色無地のケア方法

着用後のお手入れが美しさを保つ秘訣です。着物を脱いだらまず着物ハンガーに掛け、衿を広げて風通しの良い日陰に干し、湿気やシワを取ります。長時間干すと逆に型崩れの恐れがあるため、数時間から半日程度にとどめましょう。

汗が多く付着した場所は湿らせたタオルで軽く叩く、ブラシや柔らかい布などで叩くようにしてほこりを落とす、などもこの際に行います。大きなシミや汚れがあれば和装専門のクリーニングなどに依頼するのがよいでしょう。

知っておきたい色無地の正しい保管法

着用後の点検で特に大きな問題がない場合は、着物の保管に移ります。その際には生地を傷めないような配慮が必要です。

色無地は次回着用する時まで、畳んでたとう紙に包み保管を行います。通気性や吸湿性の高いたとう紙によって着物に湿気が溜まりにくくなるのと同時に、生地が折り目で傷むのを防いでくれる効果もあります。

保管の際の収納場所としては、風通しも良く直射日光や湿気を避けられる環境であることから桐のタンスや衣裳ケースなどが向いているとされています。着物を長期間保管する場合には、時々着物を出して風を通すことで生地が息づき、虫害やカビの発生を防ぐことができます。直射日光の当たらない場所で着物を乾燥させる「虫干し」も定期的に行いましょう。

適切なケアと保管を怠ると、色無地本来の美しさを損なうことにもなりかねません。日々の簡単なケアと正しい保管方法を実践することで、大切な色無地を長く美しく保つことができるようになります。

色無地を購入・レンタルする際のポイント

色無地を購入する際、あるいはレンタルする際には、その選び方にいくつかポイントがあります。ここでは色無地を店舗で選ぶ場合と、オンラインで選ぶ場合とに分けてご紹介します。

店舗で色無地を購入・レンタルする場合

店舗で色無地を選ぶ際は、生地の質を見極めることが非常に重要です。正絹の着物は高い光沢と滑らかな肌触りが魅力で、着用時の美しいドレープや風合いが特徴となっています。着物の中でも色無地においては特に色の均一性や染めの深みにも注目し、高品質なものを選びましょう。生地の織り方による質感や光沢の違いも重要なチェックポイントとなります。

着用するシーンを考え、それに適した色や生地の質感を選ぶことも大切です。フォーマルな場合、カジュアルなシーンなど、上で述べてきたような色無地の幅広い着用シーンに特段フィットする色や素材のものを選びたいものです。

店舗ではできる限り試着も行い、ご自身の体型にフィットするか、着心地が良いかも確認しましょう。同じサイズでも着る人の体型によって見え方が変わってくるため、店舗で試着を行うことは非常に大事なことです。

店舗には専門のスタッフがいるという利点も活かし、着こなし方の相談や不明な点についての質問を積極的に行うようにしましょう。着付けのコツや小物使いなど、プロのアドバイスが色無地の着こなしをより豊かなものにしてくれるはずです。

オンラインで色無地を購入・レンタルする場合

オンラインで色無地を選ぶ場合、信頼できるショップ選びがまず第一歩です。ショップについての口コミやレビューを比較して、よりご自身のニーズに合うショップを選びましょう。

着物や小物ごとの情報をいつ、どこからでも閲覧することができるのもオンラインのメリットです。気になる色無地に関しての説明をよく読み、色や生地の種類、サイズ、返品・交換ポリシーなどをチェックするようにしてください。実際の商品の色味や質感を知るために、ここでも購入者によるレビューや投稿写真が役立ちます。

オンラインには多彩な選択肢から比較検討できる利点がありますが、その一方で画像で見る着物の色味と実物との間に誤差が生じうることは注意しておかなければいけません。サンプルや試着の取り寄せが可能な場合はそうしたサービスも利用し、生地感や色を直接確認するのがおすすめです。

まとめ

色無地は、その汎用性と着物自体のシンプルな美しさで無限の可能性を秘めた和装です。

紋あり・紋なしによる品格のバリエーションやその選び方、着こなし方やケア方法など、本記事を通じて掘り下げてきた情報をもとに、和装の楽しみを存分に味わっていただければ幸いです。

〈参考記事〉
https://kimono-rentalier.jp/column/kimono/iromuji-kaku/
https://kimonoomohi.com/kind/iromuji/
https://kimono-nagami.com/tpo-kimono-houji/
https://kitsuke-school.jp/basic/1531/
https://www.kimono-aoki.jp/topic/2019/08/201908
https://ichiru.net/column/iromuji-dressing/
https://ichiru.net/column/wear-it-yourself/
https://www.brush-up.jp/guide/sc73/self_education
https://suzunoki-kimono.com/care01/
https://www.naganuma-kimono.co.jp/event/column06.html

著者情報

ゆめや通信編集部

執筆者

この記事はゆめや通信編集部が執筆しています。編集部では、企画・執筆・編集・入稿の全工程を担当・チェックしています。
田村芳子プロフィール画像

監修者 田村芳子

「アンティークきものレンタルゆめや」店主 着物コーディネート・着付け・和裁歴50年余。1985年に「アンティークきものレンタルゆめや」を創業。多くの人にアンティーク着物を着て頂くため、日々接客やコーディネート、着物の手入れを行っています。

最新記事

松井青々作、花車の手描き友禅訪問着【hou146】

【着物のプロが監修】訪問着を宅配レンタルで!選び方の完全ガイド

はじめに 訪問着のレンタルを利用すれば、特別な日に適した美しい装いを簡単に整えることができます。 この記事では、訪問着の選び方からレンタルの利点、さらには宅配までの一連の流れをわかりやすくご説明します。 初めての方も、ど […]

ひとつ前の記事

七五三イメージ

七五三にはどんな意味や由来がある?その歴史と意義、お参りのポイント

はじめに 日本に古くから伝わる七五三は、子どもの成長を祝うための心温まる行事です。3歳、5歳、7歳を迎えたお子さまが主役となり、家族で神社にお参りをして、お子さまのこれまでの成長を祝い、また以後の幸せと健康を祈ります。 […]
試着予約フォームへ|絹100%のアンティーク着物を特別な日に、無料試着、簡単4項目の入力で完結!