黒引き振袖とは~歴史と婚礼に選ばれた理由

黒引き振袖が広く婚礼衣装に選ばれていた理由

今でこそ、花嫁衣裳として販売やレンタルされる振袖の中には、化繊のものも多くなりましたが、古くからの日本では多くの場合、婚礼衣装や「嫁入り道具」として持参する着物には「正絹」が用いられてきました。

上質な絹で衣装を仕立てようとすると、今でもなかなか手がでない高級品ですが、結婚式となるとやはり格式が高い着物を用意しなくてはなりませんので、衣装代が家計を圧迫することも多かったようです。

当時、いわゆる「嫁入り道具」として持参していた着物の代表的なものとしては、既婚女性が身につける礼装の「留袖」、そして葬祭の時に着る「喪服」、加えて略礼装の「訪問着」などがあげられますが、特に「黒留袖」は欠かせないものとされていました。

嫁入り道具に選ばれる代表的な着物(~昭和時代)

  • 留袖(特に黒留袖 既婚女性の第一礼装)
  • 喪服
  • 訪問着

※黒引き振袖は黒留袖にアレンジ可能

婚礼衣装として黒引き振袖を仕立てれば、結婚した後に袖を切って黒留袖に作り直せることから、黒地のもので婚礼衣装を用意することが多かったと言われています。そのために袂や裾など下の方にだけ柄を入れるといった工夫がされていることもありました。

そんな背景を逆に考えると、婚礼のために考えられた意匠(デザイン)や、染めや刺しゅうなど、職人の技によって彩られた婚礼衣装としての黒引き振袖は、まさにその日のためだけに存在するものなので、慶びと豊かさを象徴する贅沢品だったと考えられます。

実は動きやすく幅広くつかえる黒引き振袖

和装での婚礼や黒引き振袖に興味はあっても、「大変そう」と敬遠してしまう方も少なくないと思います。実は引き振袖は、軽くて動きやすいのも特徴です。

黒引き振袖は、「打掛」を羽織らないため、「白無垢」や「色打掛」の衣装に比べて着こむ着物の枚数が少なくなり、重さもだいぶ減るので動きやすくなります。また、裾を引いた状態で着るので全体的にすっきりとしたラインが出て、立ち姿のシルエットもきれいに出ます (お召しになった後のふるまいなども、コラムで順次ご紹介していきます) 。

黒引き振袖も、もちろん白無垢や色打掛と並んで神前式でも婚礼衣装として用いられる格式の高い和装ですが、堅苦しくなりすぎず動きやすいので、様々なシーンに対応し、少しカジュアルな雰囲気や「人前式」を希望している方、あるいはマタニティの方など、幅広く活躍します。

また改めて紹介しますが、最近は角隠しを使わず洋髪で黒引き振袖を着こなす方もいらっしゃいます。新しい個性的な和装の婚礼シーンでも黒引き振袖は注目されています。

振袖は袖丈の長さによって呼び名が変わります。黒引き振袖など、花嫁が着用する振袖は「大振袖」。昔は「本振袖」や「お引きずり」とも呼ばれていた婚礼用の振袖で、最も袖が長い着物です。例えば、成人式の際に購入した振袖を結婚式でも着たい、といった場合は手直しが必要になるのでお気をつけください。

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ゆめや通信編集部

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監修者 田村芳子

「アンティークきものレンタルゆめや」店主 着物コーディネート・着付け・和裁歴50年余。1985年に「アンティークきものレンタルゆめや」を創業。多くの人にアンティーク着物を着て頂くため、日々接客やコーディネート、着物の手入れを行っています。

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