【着物のプロが監修】引き振袖の選び方と基本知識、マッチする髪型
はじめに
伝統的な婚礼衣装である引き振袖を着用しようと考えている方の中には、ヘアスタイルをどうすべきか迷われている方も多いでしょう。今回の記事では、結婚式全体の流れにも関わるこの問題について考えていきたいと思います。
婚礼衣装とは何か?
日本の伝統的な民族衣装である和服。着物とも呼ばれる衣装の起源は古いようではありますが、古代日本は固有の文字文化を持っていなかったため、詳細なことは分かりません。ですが、遺跡調査などから、古墳時代以前にも衣服が存在し、人々が身にまとっていたことは分かっています。
奈良時代の人々の装いは、当時の漢の影響を受けたものであったようです。高貴な人も庶民も小袖と呼ばれる、袖口が縫い詰まった衣をまとっていたようです。それとは別に、特別な際にまとう儀礼用の服もこの時代に生み出されます。平安時代になると高貴な人々の活動量が減っていくことからも分かるように、重ね着をした独特のスタイルである十二単が見られます。この頃の庶民は、変わらず小袖を表着として着ていました。
婚礼衣装として形が整ったのはさらに後の室町時代の頃です。足利幕府の礼道教育の普及に伴い、武家を中心に婚礼の儀も整えられたことにあります。礼服として古くから白装束が用いられていたことが分かっています。これは、白は太陽の象徴として神聖さを表していたためといいます。また、衣服の上にコートのように衣を打ち掛けるスタイルも高貴な女性たちのおしゃれでした。これらの文化が婚礼の衣装にも取り入れられ誕生したのが白い打掛、後の白無垢です。
安土桃山時代になると武家の衣装が派手になるとともに、婚礼衣装も豪華になっていきます。これが色打掛です。以上のように、神様に二人の結婚を報告する神事のための衣装に、権力の象徴としての意味も混ざり合い、和装の中でも特殊な存在として進化してきたのが婚礼衣装です。
アンティークきものレンタルゆめやでは、大正から昭和に作られた贅を尽くした黒引き振袖を取り揃えています。鶴亀や松竹梅、吉祥紋様といったおめでたい絵柄がふんだんに施された黒引き振袖には、婚礼の場にふさわしい凛とした華やかさがあります。歴史とともに培われてきた美が、特別な花嫁姿を演出します。
引き振袖の基本知識
婚礼衣装の一つである引き振袖とはどのような衣装なのでしょうか。着物としての歴史と特徴、そして他の婚礼衣装と比較したときの選び方について見ていきたいと思います。
引き振袖とは?
引き振袖を知るために、まず「振袖」の歴史を紐解いていきます。現在、成人式で多く見られる振袖とは未婚女性の第一礼装になります。その特徴は以下のようなものがあります。
- 袖:長く、振ることができる袖が特徴的。
- 色:華やかで多彩な色が用いられることが一般的。赤やピンクなど、明るい色が人気です。
- 柄:季節の花や伝統的な模様が施されています。
- 帯:丸帯や袋帯を使い、変わり文庫結びや立て矢結びなど、豪華な結び方をすることが多いです。
その原型は、先述の小袖にあります。表着として男女問わず長く着用された小袖ですが、特に子どもの場合は体温が高いため、熱を逃がす方法として振り八ツ口が開けられました。時代が経つにつれて、この振り八ツ口の開いた小袖は若い男女の間でも着用されます。
江戸時代前期になるとこの小袖にある異変が起きます。戦乱が終わり人々の生活水準が向上したこともあってか、若い女性のおしゃれとして小袖が豪華に、そして袖が伸びていったのです。いちばん長く伸びた結果が振袖です。振袖は未婚女性に普及して、特に黒振袖の紋付きは正装として着用されるようになりました。
ちなみにこの振袖ですが、袖の長さによりグレードが変わります。
- 大振袖:袖丈104〜120cm程度
- 中振袖:袖丈100cm前後
- 小振袖:袖丈60〜85cm程度
長いものほど格が高いとされています。現代の日本人は江戸時代の人々に比べ高身長であることから、多くの振袖は中振袖以上の長さが一般的です。
さて、この振袖が婚礼衣装として用いられるようになったのが江戸時代後期といわれます。元々は武家の花嫁衣装として始まったもののようで、江戸時代中期の特権階級の女性が優雅に裾を引きずる歩き方から始まりました。これが引き振袖です。
最も正式なものは、黒紋付の大振袖に角隠しをかぶります。また、通常の振袖と違い裾に綿を入れて仕立てます。ちなみに、婚礼後に袖を切って縫い留めた着物を既婚者の正装として着用するのですが、これが留袖です。徐々に庶民の花嫁衣装としても広まるのでした。
引き振袖は花嫁衣装として重宝されていました。ですが戦後、婚礼に変化が起きます。高度経済成長期、国民は豊かになりました。結婚式も豪華になり、衣装も高価な白無垢や色打掛を好むようになったのです。引き振袖はこのまま絶滅するかと思われたとき、奇跡が起きました。引き振袖は時代の流れに合わせて豪華に、そして以前のように引きずることでカップルたちに受け入れられたのです。平成の頃になると引き振袖の色も多彩になり、近年再び注目を浴びています。
婚礼衣装の選び方
結婚式に際して、どの衣装を着るのが最適かをそれぞれの衣装の着用シーンから考えていきます。
- 白無垢:一般的には挙式で着用されています。
- 色打掛:挙式、披露宴のどちらでも着られる衣装とはなりますが、多くは披露宴の衣装として用いられます。もちろんお色直しの衣装としても着られます。
- 引き振袖:挙式、披露宴のどちらでも着用可能ですが、主に披露宴での着用が基本です。色打掛よりも軽量になることが多いため、動きやすいというのも好まれるポイントです。
左より白無垢、色打掛、引き振袖です。
その他の視点として、その人の雰囲気や好み、色の選び方についても紹介します。
- 個性を出す:自分の好みや個性を反映させた色を選ぶことで、一味違った姿を楽しむことができます。
- 季節を意識:春は桜色や淡い色、秋は紅葉色や深みのある色など、季節に合わせて色を選ぶのもおすすめです。
自分の好みやイメージ、そして場の雰囲気などを総合的に考慮して行うことが大切です。自分にとって、最も美しいと感じる衣装を選んで、特別な日をより一層華やかに演出しましょう。
ゆめやでは、2種類の婚礼和装プランをご用意しています。「結婚式向け和装プラン」は、アンティーク婚礼衣装をお得な価格でレンタルしていただけるプランです。抱え帯・草履・筥迫・末広といった婚礼小物もこだわりの逸品を取り揃え、フルセットでお貸出しいたします。撮影はプランに含まれないため、遠方の方にも気軽にご利用いただけます。「和装レンタル前撮りプラン」は、婚礼衣装レンタルとロケーション撮影がセットになったお得なプランです。着付け・ヘアメイクから撮影・データお渡しまで、全て込みの明瞭な価格設定です。
引き振袖に合わせるヘアスタイルの選び方
引き振袖といえばその美しい色や模様が魅力の一つですが、それだけでなく引き振袖に合わせるヘアスタイルもとても重要です。髪型は、引き振袖の雰囲気をより一層引き立てる要素となりますので、適切なスタイルの選び方を知っておくことが大切です。
髪型の基本的な選び方
引き振袖を着る際のヘアスタイルは、全体の雰囲気や好み、式の構成に合わせて選ぶと良いでしょう。
角隠し
最も正式な装いとして黒の引き振袖に小物として角隠しを合わせます。角隠しとは先述の室町時代の女性が小袖をかぶっていた習慣からきており、江戸時代の頃に成立したかぶり物です。結婚した娘は角を隠して嫁ぎ先の家に入るという伝承から名付けられたといいます。角隠しは白無垢、色打掛にも合わせることが可能ですが、一点、髪型は文金高島田といった和髪である必要があります。
式場の雰囲気
神前式でも神社で執り行う本格的な挙式の場合は洋髪よりも、和髪が好ましいと感じる場合も多いでしょう。角隠しを付けずに髪飾りにスポットを当てたスタイルもすてきですし、自分の好みで選びましょう。
式の構成
全体の式構成を見て髪型を決めることもあります。例えば、挙式にウェディングドレスを着用したのちに披露宴で引き振袖を着る場合に、お色直しの時間を短縮するためにウェディングドレスの時の洋髪のまま引き振袖を着用するということも考えられます。和装から洋装、洋装から和装に着替えたい場合は、和装から和装、洋装から洋装よりも時間がかかります。一つひとつ式の流れを整理しながら決めましょう。
さて、髪型を選ぶ際のポイントをいくつかご紹介しましたが、大切なのはあなた自身が納得できるものを選ぶことです。髪型は、自分自身のセンスや好みを反映させることができるので、自分らしいスタイルを見つけてみましょう。
和風とモダン、二つのアプローチ
引き振袖に合わせるヘアスタイルには、大きく分けて「和風」と「モダン」の二つのアプローチがあります。
和風のヘアスタイル
和風のヘアスタイルは、伝統的な日本の髪型をベースにしたものです。日本髪や島田髷などの古典的な髪型が代表的です。このようなヘアスタイルは、角隠しの有無に限らず和装に特によく合います。
- 日本髪やざしのような伝統的な髪型
- 簪や花を使ったアクセサリーの取り入れ
- 上品で落ち着いた雰囲気
日本髪に合う、古典美の引き振袖をご紹介します。
「御所車と帳幕の上を鳳凰が舞う黒引き振袖」手描き友禅と手刺繍で彩られた、アンティーク黒引き振袖です。紅白幕や雲取り模様を背景に肩には鳳凰が舞い、上前には御所車が描かれています。華やかな文金高島田に引けを取らない、豪華絢爛な一枚です。
「鳳凰に松竹梅と菊の花の五つ紋付黒引き振袖」黒地を埋め尽くすほど鮮やかな絵柄で彩られた、アンティーク黒引き振袖です。上前に大きく鳳凰を配し、松竹梅などの吉祥紋様が手描き友禅や手刺繍で描かれています。豪華な文金高島田にふさわしい、花嫁ならではの艶やかな装いです。
モダンなヘアスタイル
モダンなヘアスタイルは、洋髪や最近のトレンドを取り入れたものです。ボブやアップスタイル、ヘアアクセサリーを駆使して華やかな印象を作り出します。このようなヘアスタイルは、ドレスにも当然よく合います。
- 洋髪やボブ、シニヨンヘアなどのトレンドを取り入れたスタイル
- 華やかなアクセサリーや飾りの使用
- 若々しく、フレッシュな印象
洋髪に合う、モダンな印象の引き振袖をご紹介します。
「鹿の子模様の傘と扇、雲取の黒引き振袖」雲取り模様を背景に、大きな傘や檜扇を描いたアンティーク黒引き振袖です。青色を多用したモダンな意匠は、日本髪はもちろん洋髪とも好相性。特別感のある花嫁姿を叶えます。
「梅と菊の花に檜扇の黒引き振袖」おめでたい色である紅白を基調とした、アンティーク黒引き振袖です。檜扇や松、菊や梅を所狭しと描いた、艶やかな意匠。洋髪でも違和感がなく、現代的な感覚で着こなしていただけます。
髪のアクセサリーとその選び方
引き振袖を身にまとった際に、その華やかさをさらに引き立てる要素として髪のアクセサリーが挙げられます。ただし、その選び方や組み合わせ方にはコツがあります。ここでは、髪のアクセサリーの基本的な選び方やコーディネート術についてご紹介します。
アクセサリーの素材と種類
髪のアクセサリーにはさまざまな種類と素材があります。どのアクセサリーを選ぶかは、振袖の色やデザイン、そしてどのような雰囲気を出したいかによって異なります。
- 簪(かんざし):伝統的な日本のヘアアクセサリー。金属やべっ甲、漆などの素材で作られ、花や鶴、扇子などのモチーフが施されています。
- ヘアクリップ・ヘアピン:華やかなデザインのものやシンプルなものまで幅広く用意されており、引き振袖のデザインや色に合わせて選ぶことができます。
- コーム:和装だけでなく、洋装のヘアスタイルにも合わせやすいアクセサリー。金属やビーズ、花や蝶などのデザインが施されていることが多いです。
アクセサリーの素材についても、引き振袖や帯のデザイン、または結婚式のイメージに合わせて選ぶと良いでしょう。金属製のものはモダンな印象を、漆やべっ甲のものはより和風な雰囲気を醸し出します。
ゆめやでは婚礼衣装だけでなく、髪飾りもご用意しています。日本髪に映える伝統的なべっ甲調や蒔絵調のほか、ビーズが輝く現代的なデザインの髪飾りもご提案しています。ヘアアクセサリーを存分に活用することで、より自分らしい花嫁姿をお楽しみいただけます。
アクセサリーのコーディネート術
アクセサリー選びのポイントは、そのデザインや色が振袖全体とのバランスを取ることです。以下に、アクセサリーのコーディネートのポイントをいくつかご紹介します。
- 引き振袖の色とのバランスを取る:例えば、引き振袖が明るい色の場合はシンプルなデザインのアクセサリーを選ぶと全体が引き締まります。逆に引き振袖がシンプルな色の場合は、華やかなアクセサリーでアクセントをつけると良いでしょう。
- 他の小物との組み合わせ:帯締めや帯揚げ、草履やバッグなど他の和装小物ともコーディネートを考えることが大切です。
- 髪型との相性:アップスタイルの場合は、大きめのアクセサリーや簪が映えます。一方、ダウンスタイルやボブの場合は、デリケートなヘアピンやクリップが合います。
アクセサリーは、引き振袖のスタイルをより際立たせる要素となります。
ゆめやの引き振袖を着用したトータルコーディネートをご紹介します。「花菱立涌紋様に鳳凰孔雀の黒引き振袖」花菱立湧紋様を背景に上前に鳳凰、右肩に孔雀、後裾に鶴を描いたアンティーク黒引き振袖です。白地に古典紋様を織り出した丸帯を締めて、格と時代を合わせました。すっきりとまとめた洋髪に、大輪の花の髪飾りを挿して現代的な装いに。古典と新しさが融合した、洗練された花嫁姿です。
まとめ
さて、これまでに紹介してきた引き振袖とそれに合わせる髪型に関する情報を、改めてまとめてみましょう。和装の髪型やアクセサリー選びについて、簡潔にポイントをおさらいします。
引き振袖に合わせる髪型のポイントを再確認
引き振袖は、結婚式に着用する和装の一つです。そこで、その魅力と合わせるべき髪型について再確認しましょう。
- 引き振袖の特徴:華やかな色や長い裾、長い袖のデザインが特徴で、伝統的な装いの中でも特に注目されるアイテムです。
- 和の美:日本人が追求してきた女性の美の頂点である花嫁衣装。そのジャンルの中では最も新しいスタイルであり、そのデザインの美しさは世界からも注目されています。
- 髪型との合わせ方:日本髪や洋髪を取り入れたヘアスタイル、そして髪飾りやアクセサリーとのコーディネートが可能で、いずれも魅力を引き立ててくれます。
髪型やアクセサリー選びでの注意点
美しい和装をさらに引き立てるための髪型やアクセサリー選びですが、注意すべきポイントもいくつかあります。
髪型の選び方
- 角隠しをかぶる場合は和髪の必要があります。
- 式場の雰囲気によって、似合う和髪、洋髪も影響されます。
- 結婚式全体の流れで髪型を選ぶ必要があることも覚えておきましょう。
アクセサリーの選び方
- 和装の色やデザインに合わせて、小物やアクセサリーを選ぶことが大切です。
- ただし、あまり多くのアクセサリーをつけると全体のバランスが崩れることも。適度な量感を意識しましょう。
このように、和装と髪型、アクセサリーのバランスを考えることで、より美しい装いを楽しむことができます。一生に一度の特別な日を、最高のスタイリングで迎えてくださいね。
〈参考記事〉
https://orifuri.com/sblog/weddingterm/hikifurisode.php