
ゆめやの婚礼:そもそも「正絹」とは?
お蚕さんはサナギの形でオスかメスかを見分けることができます。そこでオスとメスのペアをひとつの箱に入れておき、サナギから出てくると必ずお相手が見つけられるようにします。めでたく交尾が終了すると、メスに産卵の準備をしてもらいます。役目を果たしたオスの寿命はここで終わってしまいます。人と違って、虫の世界はきびしいですね。
蚕蛾が卵を産み付ける場所は、厚手の和紙です。病気予防や検査のために、和紙には四角い区切りがあり、区切りの中で丸いコップを伏せたような空間に、蚕蛾を入れます。蚕蛾は、それぞれの丸の中に卵を産み付けるのですね。卵が産み付けられた和紙を、蚕卵紙(さんらんし)または蚕種紙(さんしゅがみ)といいます。
日本の蚕卵紙はたいへん上質で、江戸時代後期にはずいぶんと輸出されたようです。蚕蛾に卵を産ませて蚕卵紙を作る作業を請け負う方を、「蚕種屋(たねや)」と呼びます。
蚕卵紙は蚕種屋さんから稚蚕農家(ちさんのうか)さんに渡されます。稚蚕農家さんでは、温度と湿度に気をつけながら卵の管理をし、孵化(ふか)させて、生後1週間ほどまで育てます。生まれた直後のお蚕さんは体長2ミリ。1週間後には5~8センチメートルほどに大きくなります。驚異的な成長具合ですね。

この1週間の飼育はたいへん難しいので、専門の稚蚕農家さんにお任せします。新鮮な桑の葉を食べながら、たったの1週間ほどの間に5回も脱皮をして、どんどんと大きくなるのだそうですよ。
生後1週間、体長5~8センチメートルの4齢(れい)~5齢と呼ばれる姿になると、養蚕農家(ようさんのうか)に貰われていきます。このタイミングは、地域や養蚕農家さんの熟度によってバラつきがあるようで、2齢の体長1センチメートルほどで貰い受ける養蚕農家さんもいらっしゃるそうです。
適切な温度と湿度のもと、新鮮な桑の葉をモリモリと食べながら、お蚕さんは体長8センチメートルほどに成長します。成長が終わると、エサである桑の葉を食べなくなり、繭を作るための糸を吐き出す準備にはいります。白かった体が黄色く透き通ったようになり、体長は7センチメートルほどに小さくなります。この状態を「熟蚕(じゅくさん)」と呼びます。
熟蚕期を迎えたお蚕さんは、繭を作る場所を探しはじめます。ゴソゴソと賑やかに這いまわり、垂直方向に登って、快適な場所を見つけようとします。そこで人が考え出したのが、「上蔟(じょうぞく)」です。

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